私達がラットでまさに研究している内容の問題ですね。
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
2011年7月27日
心不全のチーム医療・病診連携への試行錯誤●その8
心不全では合併する抑うつが独立した予後規定因子とされていますが、その診断法や治療法についての記載は、日本で教科書に登場することはほとんどありませんでした。しかし、うつも心不全のチーム医療で取り上げるべき項目と考えられることから、現在までの知見をまとめてみました。
心不全に合併する抑うつの頻度と意義
日常臨床において患者の精神面までケアすることは少なく、心不全の治療では心臓そのものに集中した治療が行われます。しかし日本における心不全の検討においても、抑うつは23%に合併しており、独立した予後予測因子であることが報告されています[1]。最近では経過中にうつが悪化すると、予後がさらに悪化するという報告もあります[2]。
心不全に合併する抑うつの診断
では、診断はどうすればよいのでしょうか。上記の論文では、様々な抑うつのスケールが使用されています。しかし、循環器専門医が一般的に使用するには煩雑です。チーム医療を定着させるためには、システムは簡便なことが必要です。
そこでスクリーニングとして、(1)物事に対する興味や楽しみがなくなった、(2)気持ちが落ち込んだり、憂うつになる――という簡単な2項目の質問法が提唱されています[3]。これでうつが疑われた場合、専門の精神科へコンサルトするのがよいと思います。ここで大切な点は、患者教育資材などに質問を記載しておくことです。そうすれば、スクリーニングが半ば自動的に行われるようになります。
緩和ケアにおける抑うつの治療
では、治療はどうすればよいのでしょうか。心不全患者にうつが存在した場合、その治療効果、または介入して予後が改善するかどうかについては、まだ結論は出ていません。
SEARCH(Support Education, and Research in Chronic Heart Failure Study)では、心不全患者における「マインドフルネス瞑想」(「注意集中型瞑想」)と、サポートグループとのディスカッションを中心とする介入の効果が比較検討されました[4]。
その結果、抑うつの指標として用いたCES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)、QOLの評価としてのKCCQ(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)は、短期的には著明に改善しましたが、QOL改善効果は1年後には消失し、長期予後には影響を与えませんでした。
薬物療法はどうでしょうか。心不全の抑うつに対する薬物療法も、その効果は検討され始めたばかりです。三環系抗うつ薬はQT延長作用のために勧められず、欧米では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が勧められています[5]。
SADHART-CHF (Sertraline Against Depression and Heart Disease in Chronic Heart Failure)では、抑うつを合併した心不全患者に対するSSRIセルトラリンの効果が検討されました。
図1 心不全における抑うつの改善と予後(SADHART-CHF、Jiang W, et al. Am J Cardiol. 2011;107:545-51.)
全体解析ではセルトラリン群だけでなく、プラセボ群もプラセボ効果により抑うつが改善してしまい、両群間に治療効果の差が出なかったのですが[6]、抑うつが改善した場合、いずれの群でも予後が改善する傾向が報告されました(図1)[7]。適切な抗うつ薬による抑うつ改善は、症状の改善とともに予後も改善する可能性が示唆されたと考えられます。
日常臨床での抑うつへのアプローチ
実際の心不全臨床では、スクリーニングとして先に紹介した2項目の質問を行い、疑いがあれば精神科へコンサルトし、薬剤療法の必要があれば精神科医によるSSRIの投与が望ましいと思われます。
日常臨床では、循環器医が処方しやすい抗不安薬であるベンゾジアゼピン系の薬剤が漫然と使用されることが多いと思いますが、薬物依存の問題もあり、SSRIを投与する初期には併用しても、徐々に減量することが望まれます。
SSRIの中でもセルトラリンは、他剤よりも悪心、傾眠、頭痛、便秘などの副作用が少なく、薬物相互作用のリスクも少ないことが知れられており、高齢者や合併症を有する患者に安全に投与できる薬剤とされています。
【論文】
[1] Kato N, et al. J Card Fail. 2009;15:912-9.
[2] Sherwood A, et al. J Am Coll Cardiol. 2011;57:418-23.
[3] 加藤尚子、呼吸器&循環器ケア. 2011;10(6):46-53.
[4] Sullivan MJ, et al. Am Heart J. 2009;157:84-90.
[5] Adler ED, et al. Circulation. 2009;120:2597-606.
[6] O’Connor CM, et al. J Am Coll Cardiol. 2010;56:692-9.
[7] Jiang W, et al. Am J Cardiol. 2011;107:545-51.